コラム・指導日記⑥                       今後のアニーは演技重視?


今年のアニーのメイキングで演出家ジョエルさんが強調していたのが「演技重視」ということでした。昨年のアニー役・髙地杏美さんの演技に触発されたのでしょうか。日本のミュージカルの子役界でもブロードウェイ並みに演技のできる子が現れたと。

 

■確かにこれまでは、「歌が上手い」+「ダンスがレベル以上」+「元気で愛嬌がある」という事以上はあまり期待できない状況でした。「演技の大切さ」をあまり教わって来なかったから仕方がありません。時折子どもたちを集めたミュージカルを見ても、アイドルイベント的なもので終わっているように感じる事が多いです。大人のミュージカル劇団でも同じような状況「演技力不足」が散見される中では、いつまでたってもロンドンやブロードウェイに肩を並べられないのは無理もないかもしれません。

 

■ところが髙地杏美さんのアニーは、これまでのアニーとは違いました。「台本の台詞やト書きを一生懸命表現しています」といったものはまったく感じさせず、また「上手い」とか「下手」とかも感じさせない。そこに生活感のあるアニーがいて、周囲の人たちを愛している姿があるだけでした。「歌が完璧」とか「ダンスが上手い」と言ったことではなく、「大人の共演者との演技に感動した」といった感想を周囲で一番耳にしたアニーでした。

 

■思い出すのがオーディション直前に行ったプライベートレッスンです。その頃髙地杏美さんは四季のロングランミュージカルに出演中で、自分の表現を見失っていてオーディションが怖いと感じていました。オーディション4日前の火曜の晩、「トゥモロー」も「自由曲」も、まるで自信のないものでした。演技も定まっていませんでした。そこで自分を取り戻し、歌も演技も主体的な表現をすることをディスカッションしながら組み立てました。

 

■一つだけ具体的に、その過程を紹介致しましょう。有名なロケットのシーンで、新しいロケットを床に投げ捨てるところです。最初はメイキングや舞台で見たままの演技を一見上手に淀むことなく演じましたが、何の説得力もありません。そこで、2回目はウォーバックスの気持ちも大事にしながら演じました。今度は投げ捨てることはできずに、相手への愛を抱き、大事に両手にかかえて新しいロケットを返しました。ヒステリックに大騒ぎして泣こう泣こうとする華奢な演技とは別世界の、愛に満ちた感動的なシーンになりました。そういった事も経て、オーディションでは自分なりの納得の演技や歌ができたとアニー役合格後の報告で聞きました。

 

■歌やダンスを軽視するのではなく、演技もそれらと同じくらい重要視する時代に入ってきたかなあ、と思います。そして今後のミュージカルがより感動的なものになって行くことに期待したいと思います。また、オーディション合格者の成功例も、今後レッスンの中でシェアできたらと思います。ともに頑張りましょう!